Dreaming

    現実と見紛うような夢を見た、と言ったら、もうひとりの自分が呆れるように答えた。それを夢と言うんだけどね。     目覚めてベッドから起きあがろうとしたとき、四十年近くも昔の...

humor :)

「おっと。個人用ではないアカウントから送ってしまった。ドイツは早朝 :)」。ドイツから寝惚けた様子を装って誕生日祝いのメッセージを送ってくれたのは、社会学博士号のビジュアルアーティストで、ボーイッシュなベリーショートのサ...

潮汐

    雨が降ってきたよ、と空を指差し、目線で合図を送ってくれた。浜辺で大型犬を散歩させていたその人は、海岸線に沿って建つ西湘バイパスの橋梁の下を指差した。あそこで雨宿りしましょう...

ブレイクダウン

   「ノ」のように、緩やかにカーブした十センチほどの赤い線が引かれていた。単行本のページを捲っていった先で、ページを切り裂くように現れたその赤い線は、ペンではなく、色鉛筆やクレヨンでもなく、口紅あるいは色つきリップで引...

Non-Fiction

「ノンフィクションは嫌いじゃないんですけどね」とポッドキャストにゲスト出演した海外文学の翻訳家の岸本佐知子さんは、まるで魚座の習性を代弁してくれる天の声のように言った。「現実が嫌いなんですよ、私は」 TBSラジオ アフタ...

Convenience

あれ? もう治ったんですか? と最寄りのコンビニでレジのスタッフさんは言った。まだ治ってないんです、と僕は答えた。じゃあ、してなきゃだめじゃない、とスタッフさんが言ったので、現実を受け入れたくないんですよ、と僕は答えた。...

晩冬

十年前の三月だった。あるデザイナーの写真展が東京杉並区の上井草で開かれた。僕は生後半年ほど下井草に住んでいたことがあるらしい。僕は両親から聞き出した当時の住所を頼りに下井草に立ち寄って、少し遅れて上井草の会場に駆けつけた...